集中力を鍛える方法はない?|よくある誤解と効果的な対策7選

「集中力が続かない」「どうしても気が散ってしまう」と悩む人は少なくないでしょう。
集中力の欠如はシンプルに作業効率が落ちてしまい時間をムダにすることになります。
また目の前のタスクに集中できなければ成果物の質が低いモノになり、下手をするとやり直しなんてことにもなりかねません。

ただ進化心理学の観点から見ると集中力が続かないのは無理からぬこととも言えます。
何故なら人間を含めた動物全体にとって、1つのことだけに意識を集中してしまうことは外敵の襲撃により死のリスクを高める要素だったからです。

つまり放っておいても成長とともに集中力がアップするようなことはなく、集中するための工夫が不可欠ということ。
こうした工夫なしに闇雲に「集中しなきゃ!」と追い込み、気が散った自分を責めるだけでは一向に改善しません。
そんなとこで今回は、目の前のタスクにしっかりと意識を集中するための方法について解説します。

集中力という言葉が生む誤解

具体的な方法の説明に入る前に、そもそも「集中力とは何なのか?」について解説しておきます。
脳の注意を強く引き付けるもの、それは報酬(と損失)です。
そして嬉しい・楽しい・好きなどの感情に伴って活発に分泌されるドーパミンが、この注意を作り出します。
つまり集中力の源泉はこのドーパミンであり、好きなことや楽しめることというのが集中する第一条件ということです。

逆に嫌いな教科とか嫌いな先生の授業に集中できないのは当然ってこと

そしてこのドーパミンの分泌には個人差があり、その違いが各人の集中力の差を生んでいます。
元からドーパミンの分泌が少ない、またはドーパミンを感知する受容体が少ない人はなかなか集中することが出来ません。
いわゆる多動やADHD傾向があると言われる人はこれに該当することが多いようです。

やっぱ集中力は才能なのか~…

大半の人は集中力を能力だと思っているので、才能だと諦めたり鍛えようと努力します。
しかし集中力・注意力を保つ上で、能力の重要性はそこまで高くありません。

物事に集中するには自分自身を変えるより、自然と集中してしまう状況を作り出す方が効果的です。
だから冒頭でも「集中力を上げる方法」ではなく「意識を集中する方法」と表現しています。
そのための方法としてこのページで紹介するのは以下の6つのポイントです。
因みに、この中には才能に関わるドーパミンの分泌を改善する方法も含まれているので安心してください。

①時間帯 ②環境 ③ルーティン ④制限時間 ⑤運動 ⑥難易度の設定 ⑦セルフトーク

①集中力の高い時間帯を見つける

1日を通して同レベルの集中を維持できる人はほとんどいません。いたとしたら超人です。
集中しにくい時間帯に高度な集中を要するタスクを熟そうとするのは、ロスが大きくなるリスクが高く非効率なのでオススメしません。

それに関係する要素として認知リソース(ウィルパワー)という概念を紹介します。
これは思考や判断など頭を使うタスクの処理に消費される脳の体力と言えるものです。
一般的に認知リソースがMAXに近い時間帯ほどタスクに意識を集中させやすく、大抵は起床後の時間がそれに当たります。

生産性の高い人って必ずと言っていいほど朝活してるもんね。

ですが多くの人が集中しやすい時間帯だからと言って、必ずしもあなたにとってもベストとは限りません
自分にとってベストな「My頭が冴える時間」を探してみてください。
因みに認知リソースの重要性は集中の維持にとどまりません。詳しくはこちらで解説してます。

②環境を設計する

迷信のように言われていますが、実際に人には朝方と夜型がいます。
1つ前の「集中しやすい時間帯」の項目でも個人差があると説明しましたが、この違いも大きく影響します。

朝方と夜型では体温変化やホルモン分泌の周期などの影響もありますが、もう1つ環境もその要素です。
家族や隣人が寝静まり、人通りや車通りの減った夜間は非常に静かな環境になります。
人があまり起き出していない早朝も同様です。
ここから音など周囲の環境が集中度合いに大きく影響すること、そしてその重要性が分かります。

②ー1 デスクにモノを置かない

まずシンプルに余計なモノが目に入らない環境にしましょう。
スマホ、そして作業に不要ならPCも目に入る範囲には置かないことをオススメします。
出来れば作業する部屋には置かないようにしましょう。
特にスマホの依存性は非常に強力で、机の上に画面を伏せて置いてあるだけでも会話への集中力が著しく低下することが研究で確認されてます。

ごちゃごちゃと散らかっていて視界の端にモノがチラつくだけでも気になってしまい、集中を乱す原因です。
一度切れてしまった集中を元に戻すには25分もかかると言われています。
こんな些末な原因でそんなロスをしてしまうのは非常に勿体ないことなので日頃から机上の整理整頓、シンプルにしておくようにしましょう。

単に机の整理整頓をしただけでも何かを成し遂げたと勘違いしてしまう人が多くいます。
この中身のない達成感への満足を防止する意味でも、日ごろから作業机には何も置かない、掃除の不要な状態を保っておく方が良いですね。

②-2 音・光・空間

もう少し拘りたいという人は音や光といった要素にも配慮してみましょう。

まず音ですが、実は完全な静寂というのは集中にとって必ずしもプラスにはなりません。
ほとんど何の音も聞こえない環境では些細な音が必要以上にクローズアップされてしまうからです。
図書館や予備校の自習室で勉強している時、普段の職場や教室では気にならないペンを置く音や咳払い、鼻をすする音が気になってしまった経験はあると思います。

具体的な音はタスクの種類や個人的な好みにも依るので、それに合わせてフィッティングが必要です。
因みに川のせせらぎや波の音など自然音は万人受けの音源と言えます。ストレス軽減効果もあるので、オススメです。

また光の照度や色によっても集中力に影響を及ぼします。
音よりもさらに細かい要素で、調整のハードルも上がるのでマストではありません。

これら2つに比べると比較的コントロールしやすいのがデスクの配置です。
人間は自分の背面側の空間(背空)が広いと集中しにくいと言われています。
できれば壁に背を向ける向きにデスク・椅子をセットするようにしましょう。

③ルーティンを作る

試合前に決まりきったルーティンを実践するスポーツ選手は多数います。
これはいつもと同じ行程を踏むことでストレスを緩和する効果があるからです。
さらにもう1つ、これから行う作業について脳にサインを送り、意識を集中させるスイッチの役割もあります。

ルーティンの種類にこれといった決まりはありません。
決まったカップにコーヒーを淹れること、準備運動やストレッチを行うこと、目を閉じて深呼吸するような簡単なモノでOKです。
また1つ前の項目の環境設計にも関係しますが、作業部屋や音楽、照明を切り替えるといった方法もスイッチになります。

注意しなければいけないのは、ルーティンが漫画を読んだり、スマホをいじるなどといったその他の活動と結びついてしまうことです。
作業時間以外も関係なしに同じコーヒーや音楽、部屋を使ってしまうと集中と明確な結びつきは生じません。
コーヒーや音楽を余暇の時間にも楽しみたい場合には、カップや豆の銘柄、曲の種類を変えて、集中タイムとはハッキリと区別してやるようにしましょう。

因みに集中というとカフェインが多いコーヒーをドリンクに選択する人が多いですが、脳科学的に集中への貢献が高いのは意外にも紅茶だそうです。
苦手じゃないなら試しに紅茶をお供にタスクに取り組んでみてもいいかもしれません。

④時間を制限する

何となく残業中って時間が速く過ぎるように感じませんか?
これは「定時までに!」という制限が無いせいで、作業が間延びしてしまっているからです。
集中力が大幅に低下してると言い換えても良いでしょう。

このことを逆に考えると、時間を制限されることで集中しやすくなると考えられます。
一般に締切効果と言われるもので、これを活かすために各タスクに制限時間を設けるようにしましょう。

そして設定する制限時間はあまり長くしないことをオススメします。
これは人間が集中を維持できる時間は非常に短いことが理由です。
あまり制限時間を長くすると、真ん中あたりで著しく作業効率が低下してしまいます。

いわゆる中だるみってやつだね

作業を細分化して短い制限時間の枠に収まるようにするのもアリですが、個人的にはもっとオススメの方法があります。
それがポモドーロテクニックという手法で、そのメリットは時間制限による集中の維持だけではありません。
このことについては以下のページで解説しています。

因みに制限時間は前頭葉の発達(=字頭の良さのアップ)にも効果的だよ

⑤タスクの前に運動

運動のメリットの幅広さは既にしつこいほど強調されてきていますが、集中を高めることもその1つです。
特に筋トレのメリットは多岐にわたるため、別のページで個別に解説しています。興味のある方はこちらも併せてご覧ください。

頭を使うタスクの前に30分程度の運動を行うことでワーキングメモリが活性化することが研究で確認されています。
これは運動によって全身の血流量がアップし、脳に供給される血液・酸素が増加するからです。
運動の中でも特に下半身を使うものは第2の心臓と言われるふくらはぎを使うので、血流アップに効果的と考えられます。

因みにふくらはぎの筋肉を活性化するという点では作業を立って行うのもオススメです。
こちらのページで紹介したとおり、ぼくは基本的に座らずに生活することを推奨しています。

この記事も立って書いてるしね

そして運動にはドーパミンの分泌を増やす効果もあります。
冒頭で解説したとおり、ドーパミンの分泌は集中力・注意力の向上において非常に重要です。
さらに運動を継続することでBDNF(脳由来神経栄養因子)も増加し、脳機能の活性化、認知症予防にも繋がります。

パフォーマンスを上げるという点では朝タスクに入る前に運動を行うのが効果的です。
ただし疲労という観点からはあまりハードではない方が良いので、ウォーキングや軽いジョギング程度に留めることをオススメします。

⑥タスクの難易度は適切か?

ここで紹介するのはタスクの難易度と自分の能力のバランスが集中を妨げている可能性です。
仕事や学校の勉強など、自分で自由にタスクを選べないケースも多いはずで、いつでも有効な考え方とは言えません。

皆さんはフロー体験という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
ハンガリーのミハイ・チクセントミハイが提唱した非常に有名な理論です。
フロー状態の特徴として驚異的な集中状態の継続と、成長感覚などが挙げられています。
もう少し俗で身近な言い方をするなら「ゾーン」などと呼んでも良いかもしれません。

この状態に入るために必要な要素が、①タスクに取り組む能動性②適切な難易度です。
分厚い専門書などでなかなか集中できず挫折した場合はタスクの難易度が能力に対して高すぎたと考えられます。
高い目標を掲げることの重要性を解く自己啓発は多いですが、高過ぎる目標は逆効果です。
あくまで自分の現在の実力でギリ実現可能な範囲での話であり、非現実的な目標ではフローには入れません。
今は到底手の届かない目標を達成したい場合、現実的な目標で細かく区切り少しずつ前進いきましょう。

偏差値40でいきなり東大レベルの問題集を解こうとしてもムダ。基礎~MARCH~早慶~国公立~東大とステップアップしてくことだね。

なお、効果的で正しい目標の立て方について詳しくは別のページでも解説しています。

⑦セルフトーク

集中を高める上ではセルフトークという手法も有効です。
セルフトークとは自分で自分に語り掛けることであり、若干スピリチュアルの香りがしないでもないですが、研究でも有効性が確認されています。

漫画の勝負シーンで「俺はやれる!」などと自分を鼓舞してるのがあると思いますが、ちょうどあんなイメージです。
ただ1つ補足するならば、語り掛ける声は自分よりも第三者目線の方が効果的と言われています。
つまり「俺は出来る」ではなく「お前なら出来る」と自分から離れた視点で語り掛けるということです。

また語り掛ける内容も重要です。
具体的には自分がこれから集中しようとしてるタスクの行動プロセスを指示してやるような形が良いと言われます。
「サッと立ち上がって」「バッとPCを開いて」のように擬音をつけるとより効果があるとか何とか。

また自分に役割を与え、それを演じさせることも重要です。
「自分は集中できない自制心のないダメ人間だ…」という自己評価を抱えながら集中モードに入るのはかなり難しいでしょう。
「自分は集中できる人間だ」と思えるようにセルフトークをするのも有効な対策です。

諦めも肝心

ここまで集中できる条件・環境を設計する方法について解説してきましたが、集中に関してもう1つ重要なことがあります。
それが「諦めも肝心」ということです。

前日の仕事の疲れや睡眠不足などが原因で、いくら環境を整えても集中できない日もたまにはあります。
そういう日にも集中しようと頑張ってしまうことは、今後の集中や作業効率にとって逆効果です。
集中できない経験を続けると、せっかく用意した勉強・仕事のための空間が「集中できない」という認識に結びついてしまいかねません。

よく「寝付けない時は意を決してベッドから出てしまえ」と言われますが、それもこれと同じ理由です。
ベッドが寝付けない環境だと脳が認識することを防ぐための対策と言えます。

集中するための空間・環境は、常に勉強や仕事などに集中できる場所でなければいけません。
集中できなかったという失敗体験と結びつくことがないよう、無理は禁物です。

これを言い訳にしていつまでもやらないのは論外だけどね

因みにこういう日にオススメのエクササイズがあるので、こちらのページも参考にしてください。

まとめ 決して必死にならないこと

目の前のタスクに意識を集中する方法について解説してきました。
人間はもともと集中するように進化してきてはいないので、集中は苦手です。
すぐに気が散ってしまうからと過度に自己嫌悪に陥らないようにしましょう。

集中「力」と言われているため、鍛えられる能力のように思いがちですが、実は生まれ持ったもの(主にドーパミン関係の特徴)は大きく変わりません。
大事なのは本人の内部ではなく周囲の状況をコントロールすることです。
高度な集中力を発揮する人はほとんどがこうした要素を工夫することによってそこに到達しています。
逆に考えれば選ばれし者だけの特殊な能力ではなく、工夫次第で誰でも獲得できる能力(?)ってことです。

全てを実践することに躍起になる必要はありません。
むしろそうした完璧主義的な傾向を持ってしまうことの方が問題です。
1つでも条件が崩れてしまうと「もう集中できない…」と思い込みが生じて、パフォーマンスを必要以上に下げてしまいます。
絶対条件ではなく、あくまで「工夫」なので緩やかに実践していくようにしましょう。

また無理はせず諦めるのも1つの手だということも覚えておいてください。
てなとこで。