iDeCoは単なる税金の先送り?給付時の課税と対策【受取り方のテクニック】

物価も給料も上がらない中で、老後資金の心配から資産運用に関心を持つ人が増えつつあるようです。

iDeCo(個人型確定拠出年金)もその1つで、受け取りまでの運用益が非課税になるだけでなく、積立額が全額所得控除になります。

所得税と住民税が還付されるってこと

iDeCoの詳細やメリット・デメリットについては別のページで解説しています。

ただその税優遇措置について、結局は税金の先送りでしかないという主張もあり、検討中の人に二の足を踏ませる原因の1つです。

では本当にiDeCoの税優遇は単なる税金の先送りでしかないのか?

関係する項目と併せて解説します。

このページでわかること

・iDeCoの2つの受け取り方と発生する税金、計算方法
・受け取り時の税金の支払いを減らす方法
・課税されたとしてもiDeCoはやるべき?
・プラマイゼロにならない理由

1 iDeCoは受け取り時に税金がかかる

結論から先に言ってしまうとiDeCoは受け取りのタイミングで課税されます。

そしてその税金のかかり方や金額に大きく影響するのが、積立金の受け取り方法です。

iDeCoの受け取り方は大きく以下の3つのパターンがあります。

①一時金として一括で受け取る
②年金として分割して受け取る
③一時金と年金の併給

それぞれの方法により、課税される方法や額が異なるので、それぞれに分けて解説します。

1-1 一時金として受け取る場合

iDeCoの積立金を一時金として一括で受け取る場合、税金上は退職金として扱われます。

そのため税金を計算する際にも、通常の所得とは分離(分離課税)して退職所得控除として算定。

ただし分離すると言っても本業の退職金が出る場合にはそれと合算されます。

税金の計算は以下の通りです。

退職所得控除額の計算方法

①勤続年数が20年以下の場合
40万円 × 勤続年数(端数切り上げ) 2年に満たない場合は一律80万円

②勤続年数が20年を越える場合
800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20)
新卒(23歳)から定年(60歳)まで勤めた場合の退職所得控除の額は2,060万円

勤続年数は1つの会社に継続して勤めてた期間(サラリーマンの場合)なので、転職などを繰り返している場合には控除額はここまで大きくなりません。

フリーランス・自営業者は勤続年数のとこがiDeCoの加入年数になるよ

そしてこの控除額と実際の退職金の額を元に課税額が決定されます。

退職所得にかかる所得税額の計算方法
(退職金 - 退職所得控除額)× 1/2 = 課税対象額

退職所得は分離課税のため、退職金の額がいくらかによって個別に所得税が決まります。

毎月の給料がいくらかとか、直近の年収がいくらだったかとかは関係ないってこと

ちなみに退職金には住民税もかかり、こちらは一律で課税対象額の10%です。

新卒から定年まで勤めた場合、2060万円以内の退職金なら税金(所得税・住民税)はかかりません。

iDeCoと退職金の合計が非課税になる上限を越えた場合、積立中に控除されていた分を最終的には払う羽目になるというのが反対派の主張です。

この辺りは自分の会社の退職金と勤続年数の長さを参考に各自で考えてみる必要があるでしょう。

ただ受け取り方の工夫次第で、退職金が多い人がiDeCoの一時金の受け取りにも退職所得控除を効かせる方法はあります。

それについては後ほど。

1-2 年金として受け取る場合

退職金を一括して受け取るのではなく、毎月に分割して受け取るという方法もあります。

受け取り月の選択肢は金融機関によって異なりますが、年1回、年2回、隔月、毎月などがあり、期間は最長20年間まで選択可能です。

会社の退職金が多く、退職所得控除の枠を使ってしまう。または一気にドカッと入るより毎月コンスタントに入ってくる方が性に合ってるって人もいるでしょう。

この場合には一時金(退職金)とは違った方法で税金の計算が行われます。

年金受給パターンで適用されるのは公的年金等控除というものです。

これは年齢(65歳未満か以上か)や年間の収入額、年金受給額によって金額が変わります。

ここで詳細に説明すると膨大な情報量になってしまうので、詳しくは調べてみてください。

ぼくたち今の現役世代が定年する頃、公的年金の受給開始年齢が何歳になってるかも分からないので、現時点から綿密な計画を立てるのは難しいでしょう。

まあこれは退職金の額も同じだけどね

また手数料の点で年金での受け取りはかなり不利になるので、個人的にこちらの方法はあまりオススメはしません。

iDeCoにかかる手数料については、別のページで詳しく解説します。

1-3 一時金と年金の両方で受け取る場合

年金で受けとる場合の項目で軽く触れた通り、iDeCo受け取り時の手数料の関係で年金は微妙なところです。

出来ることなら一時金として受け取ってしまった方が良いでしょう。

ただし退職所得控除の枠をオーバーしてしまった場合、税金が発生することになります。

そこで退職所得控除に収まる分だけ一時金で受け取り、残りを公的年金等控除を活用して年金で受給するというのが次善の策です。

積立額の大部分を退職所得控除の枠内で受け取れるはずなので、年金で受給する残りの額はそこまで大きくはなく年金控除に収まるはず。

年金の受給回数を年1回と最小限にすれば給付手数料も最小化できます。

手数料と税負担を比較した時に、税金の方が高くなりそうな場合にはこうした方法もアリです。

2 税金の支払いを減らす受け取り方の工夫

退職金や年金、パート収入など将来の予測しにくい状況を踏まえて計画を立てるのは非常に難しいでしょう。

ただしぼくがオススメする一時金での受け取りの場合は工夫次第で税金の支払いをゼロにすることも可能です。

それが退職金と一時金の受け取りのタイミングをズラすというもの。

実は一定の期間を空けてこれらを受け取ることで、勤続年数を再活用して退職所得控除を2回行うことができるのです。

2-1 iDeCoを先に受け取る場合

iDeCoで積み立てた金額を先に受け取る場合、その5年後からは退職所得控除の計算に勤続年数を再活用できます。

つまり60歳でiDeCoの積立金を一時金で受け取り、65歳で本業の退職金を受け取ればどちらも同額の控除が可能ということ。

もちろん退職金が多い、もしくは勤続年数が短ければ課税されますが、控除を最大限活用してより節税効果を高めることができます。

ただし全ての会社で退職金を受給するタイミングを自由に選べるとは限りません。

60歳で強制的に支給されてしまう会社の方が多いでしょう。

そういう場合は次に紹介するパターンになります。

2-2 退職金を先に受け取る場合

多くの会社で現実的な方法は退職金を60歳の退職時に受け取り、iDeCoの積立金を後から貰うという方法になります。

この方法でも同様に勤続年数の再活用ができますが、1点注意しなければいけないのは「15年後から」という点です。

誤植ではありません。退職金を先に受け取る場合には75歳までiDeCoの一時金に退職所得控除をフル利用できないのです。

そこまで健在である自信のある人にとっては問題ないですが、75歳の自分の健康について確固たる自信のある人はそう多くないでしょう。

また60歳を過ぎても口座を空にするまでiDeCoの口座管理手数料もかかり続けます

会社と交渉可能なのであれば、やはり1つ目の退職金を後にズラす方法を選びたいところです。

今のうちからリサーチしておきましょう。

2-3 早期リタイアも一案

これまでの解説は主に新卒から60歳の定年まで働き続ける前提で解説しました。

しかし最近のFIREムーブメントにより、定年まで勤めずに早期リタイアするという選択も一般的になりつつあります。

そうすると75歳時点まで自分が無事に生きていられるかという心配も不要です。

例えば50歳で早期リタイアして退職金を受け取れば、65歳から退職所得控除を再利用できるようになります。

本業の勤続期間が短くなるので、退職所得控除の額も小さくなることには要注意です。

ただ現状のiDeCo制度では、サラリーマンが積み立てられる額もたかが知れてるので、あまり心配する必要はないでしょう。

まあこれから先、定年が延長されたり逆に短縮されたりという変化は起こると思われます。

iDeCoの受給開始が60歳から動かないなら、そうした企業の雇用制度の変更によって自動的に間隔が出来るかもしれませんね。

3 課税されたとしてもやるべき?

本業の退職金の受け取りを後にズラせず、75歳まで健在である自信もなく、結局は課税される運命にあると知って萎えた人も多いかもしれません。

しかし例え課税されることになったとしてもiDeCoはやはりオトクな制度でやるべきだとぼくは考えて(実際にやって)います。

その理由は大きく以下の3つです。

①退職所得控除の計算方法と
②投資の基本原則
③物価上昇による貨幣価値の低下

3-1 退職所得控除の計算方法がポイント

一時金として受け取る場合の税金の計算方法は既に紹介しました。

iDeCoが単なる税金の先送りではないとする理由は課税対象額の計算方法にあります。

退職金から控除額を引いた金額を「半分に」したものに税金がかかるというものです。

分かりやすく手数料や信託報酬などを省いた例で見てみましょう。

現役世代の所得税率:10% 退職金:2060万円 勤続年数:38年 iDeCo積立金:300万円
退職金だけで退職所得控除を使い切るので、iDeCo分は課税対象になります
(2060万円 + 300万円 - 2060万円)× 1/2 = 150万円

現役世代に控除を受けた総額は300万円分なのに対し、税金が発生するのは半分の150万円分なのです。

しかも150万円を所得税の表で見ると税率は5%となります。

つまり還付された所得税が300万円の10%で30万円。一方の受け取り時に払う所得税は150万円の5%で7.5万円。

積立期間中に支払いを免れた税金の4分の1に過ぎないのです。

ただし住民税は一律10%で課税され、課税対象額が195万円以上になると所得税率の方も10%になるので、その場合は1/2支払うことになります。

とはいえ課税対象額を1/2にしてくれる退職所得控除は非常に心強い存在と言えるでしょう。

このメリットを活かす点からも一時金での受け取りをオススメします。

3-2 投資の基本原則

投資の最大の力は運でも先見性でも分析力でもなく、誰もが平等に持っている「時間」です。

長期投資による複利の効果の重要性について何度も耳にしていながら、短期での一攫千金(ギャンブル・投機)を目指してしまうもの。

そこに魅力を感じるのは人間の悲しい性なので分からなくもないです。

しかし成功のルートは安定した(あまり華々しくはない)利率で長期間投資することのみ。

そんな中にあってiDeCoは投資に使ったお金から、さらに今投資に使えるお金を生み出す方法と言えます。

仮に退職金や運用益が莫大で現役時代の倍の所得税率がかかったとしても、それは税金の先送りではなく、無利子での投資資金の借入れと考えられます。

60歳の時に課税されなかったとしても本来ならそれで終わり。プラマイゼロで、何も取られないけど代わりに得るものもありません。

しかしiDeCoなら、未来の自分に無利子で借りたお金を元手に20年、30年と運用しておけるのです。

元本(先送りした税金部分)が差し引きゼロになったとしても30年間運用した複利部分が手元に残ります。

どうしても均等に安定してお金を貰う(払う)ことに魅力を感じやすいですが、投資においては「今」投資に回せるお金を確保することが強みになるのです。

3-3 物価の上昇 インフレによる購買力の低下

政府は物価上昇(インフレ)を目標に掲げているものの、そんなに順調に達成できていないイメージがあるかもしれません。

しかしかなりの長期の視点で見れば物価は着実に上昇してるので、将来iDeCoの積立金を受け取る時に物価は現在よりも高くなっていると考えられます。

物価が上昇するということは購買力が低下する、つまり相対的にお金の価値が下がるということです。

現役時代に還付を受けた金額と同額を受け取り時に払うことになったとしても、実質的には現役時代に払うより少ない金額で済むと考えて差し支えありません。

今ハンバーガーが100円なら1万円で100個買えますが、50年後に150円になってたら66個しか買えなくなります。

返済(納税)を猶予されることで、例え返すべき額面が同じだったとしても価値は少なく出来るというコトです。

インフレ下では固定金利ローンの方が有利と言われているのと考え方は同じですね。

借金の方はインフレをカバーするように金利が設定されてるから怪しいんだけどね

既に解説した通り無利子で未来から借金しているのと同じと考えられるので、iDeCoの場合は隠れた金利問題もありません。

まとめ

iDeCoに対して挙がる最も代表的な批判である、税金の先送り説について解説しました。

受け取り方法によって税金の計算方法が大きく変わりますが、それ以外にも手数料や運用成績など、これらを総合的に勘案して選択すべきです。

基本的には一時金での受け取りが最も控除が大きくかつ手数料が少ないのでオススメですが、正解は人や状況によっても変わります。

余計な税金は払わないに越したことはありませんが、少なくとも単なる先送りになるわけではないので、そのことは心配無用でしょう。

さらに投資することによって「今」投資できる金額がさらに増えるという好サイクルは、長期投資の強さに繋がります。

投資の天才でも凡人でも時間は平等であり、かつ最強の味方です。

また例え支払うことになる額面が全く同じだったとしても、物価上昇を踏まえればその価値はかなり小さくなります。

やらない言い訳よりやる理由を積極的に見つけて一刻も早く積立を始めましょう。

てなとこで。