危機感を煽られたら要注意!|損失回避バイアスを逆手に取ったマーケティング手法

あなたはオトクな情報が大好きだと思います。
脳は報酬が大好きなので、自分に得があるものに強く惹かれるのは自然なことです。
しかしあまり認識してる人はいないですが、実際には人間は得することよりも損することに敏感に反応します。

「○○の末路」「知らないとヤバい△△」「ムダになる××」みたいなコピーの方が注意を引き付けるのとか分かりやすいね

そしてその心理を利用して様々なマーケティング戦略が展開されているので、知らずにお金を奪い取られてしまうのです。
損失を避ける行動は必要ですが、マーケティングによって架空の損失を妄想させられてる可能性には注意しなければいけません。
このページでは、損失を嫌う人間の性質を巧みに利用したマーケティング手法のワナについて解説します。

損失は報酬の2倍の威力

脳は快楽を求めるものだから、報酬を与えることで行動を強化するというモチベーションのテクニックがあります。
確かにそうした手法は効果的ですが、損失に対する脳の反応には到底及びません。
人間の損失回避性という特性は非常に強力なのです。

これはプロスペクト理論という名前で知られていて、人は損失によるダメージを報酬の2倍近く大きく評価します。
つまり500円落としてしまった時の心の穴は、1000円以上の臨時報酬がないと埋められないということです。
逆に考えれば、得を強調するよりも損を強調する方が倍近く簡単に人を動かすことが出来ると言えます。
損失にフォーカスさせるのは、人を操る手段として非常にコスパが良いということです。

ぼくたちが想像してる以上に敏感に反応してしまいますし、「損しますよ!」と強調するだけの単純な手法ばかりではないので消費者は注意しなければいけません。
以降では、この損失回避性を利用した具体的なマーケティング手法を紹介していきます。
最初にまとめて紹介しておくと以下の3つです。

①安心を売る ②妥協効果 ③機会損失

①安心を売る

損失を強調するマーケティングで最も直観的に理解しやすいのが、安心を売る商売です。
「備えておかなければこんな危険がありますよ!」「このままじゃお金を失うかもしれません!」といった売り文句は頻繁に見かけます。

一番身近な例で言うと保険でしょう。
稼げなくなった時の収入、病気になった時の治療費、人に損害を与えてしまった場合の備えなど様々です。
保障範囲を知らないために軽視してる人が多いですが、国民健康保険だけで大体の問題には対応できます。
本当に必要な保険というのはかなり限られているので注意しましょう。

また治安なども安全・安心の売り方の1つです。
メディアではネガティブな内容の方が盛り上がるため、治安が悪化してると誤解してる人も多くいます。
そのため治安の良い地域の物件やホームセキュリティなどは売れやすいでしょう。
防犯カメラを設置してる一般家庭もよく見かけるようになりました。
IT化の推進によって、ネットセキュリティ、ウイルス対策ソフトウェア、安心サポートといった類の商品も台頭してきています。

カメラつけるって「泥棒に盗られたくないモノが置いてありますよ!」って言ってるようなもんだけどね

もう少し変化球でいくとブランド商品を買うというのも、失敗のリスクヘッジや安心の代償として払う余計なお金です。
後は物価上昇に強いなどと言って金やコモディティ、信託報酬の高い謎の投資商品を売るのも安心をエサにしたマーケティング手法と言えます。

あとは「普通」という基準もマーケティングによるものがほとんどです。
異常な協調性が蔓延した現代においては、みんなズレることも心理的な安全性を脅かします。
「みんな持ってますよ?」「こうしないと変な目で見られますよ?」という言葉だけで多くの人が面白いほど反応してくれるのです。

②人は3択に弱い

商品ラインナップは性能・スペックと価格のバランスを調整することで展開していきます。
AとBの2つの商品しか存在しない場合、スペックと価格の重視度合いで好みが分かれるので、売れ行きは大体半々です。

しかしここに第三の選択肢Sを追加すると3分の2以上の人が商品Aを選択するようになります。
この3つ以上選択肢があった時に中間の無難(に見える)選択肢を選択しやすい傾向を妥協効果と言い、これも損失回避性の表れです。

スペックが最も高い商品を選ぶと、価格も高くなるのでお金を損してしまう可能性があります。
逆にスペックが最も低い商品を選ぶと、価格は安いですがニーズを満たせずに不満を抱えてしまうかもしれません。
こうした価格かスペックのどちらかで損をする可能性を考えると、その中間に位置する選択肢は非常に魅力的に見えるわけです。

しかしこの選択肢は無難に見えるだけで、本当に無難な選択肢であるとは限りません。
元々の販売状況では商品Aは価格もスペックも最高のモノでした。
そこにさらに上の商品Sが加わったことで、中間という位置に落ちただけです。
つまり最初から売りたかったのは値段の高い商品Aで、それを選ばせるおとりとして、売る気が一切ない商品Sを用意したにすぎません。

これまで何回も買い物を経験してくる中で多くの人は学習しているはずですが、無難な選択肢ほど失敗が多くなります。
無難と聞くと何となくどちらにも転べそうな良い選択肢という印象があるでしょう。
しかし実態はどちらにも転べない単に中途半端な選択肢です。
ニーズを満たせず最高スペックのモノを買うとなれば、最初から最高を選んでたパターンはもちろん、最低を買ってたパターンよりトータルコストは高くなります。

③制限で損失が生まれる?

ここまではお金やモノを失うケースが中心でしたが、人間が失うのはこの2つだけではありません。
それが機会です。つまり「これを逃すともう次はありませんよ」というチャンスをチラつかせることでも人間の損失回避性は働きます。

最も分かりやすい例がセールです。
ネットショップでゲリラセールが始まったり、たまたま立ち寄ったショップでセールをしてると何となく薄く焦りを感じないでしょうか?
ポイント倍率が上がっていたり、割引率が高かったりすると尚更でしょう。
これはこのチャンスを逃したら次がいつになるか分からないという、機会の損失によるものです。
次に買うときに割引が受けられずに払うことになる差額を損失とカウントしてる分、余計に強力かもしれません。

また〆切効果というのも、機会という損失を避ける性質の表れです。
クーポンなどは使用期限を長くするより短くした方が圧倒的に使われやすいことが分かっています。
期限が長いと「未だ2ヶ月もあるからいつか使おう」と思い、いつしか忘れられてしまいます。
しかし期限が短いと「すぐ使わないと」という焦りを与え、使われやすくなるのです。

セールもクーポンもそれが無ければ使わなかった浪費をしやすくなります。
本当に必要なモノを必要な時に買う方がトータルでの損失は小さく済むことを覚えておきましょう。

また人間が希少性に踊らされやすいのも損失回避の表れです。
「在庫僅少」「残りわずか」などと言われると「今買わないと」という気にされてしまいます。
本来は在庫が十分にあるのに、わざと焦りを起こそうとしてるパターンもあるので注意しましょう。

まとめ

人間の損失回避性という心理特性を利用しマーケティング手法について解説しました。
人間はオトクなこと快楽に反応すると思われてますが、損失や不快といったマイナスの影響の大きさは比になりません。
その強い反応が判断ミスを加速度的に増やしていくことになってしまいます。

最も分かりやすい手法が、安心や安全をエサにした売り物です。
自分や家族の身、お金、その他の資産などを守るための支出というのは必要かつ合理的に思えますが、そこまで大きなコストをかけなくても十分ということはままあります。

また無難な選択肢を求めるという性質も失敗したくないという損失回避の表れでした。
この心理を利用すれば、無難に見えるように環境を工夫するだけで、企業が買わせたい商品を買わせることが出来てしまうのです。
これは販売戦略が意図したことではありませんが、無難な商品は結局ただの中途半端なので、後悔や余計なコストが生じることにもなると認識しておきましょう。

最後に最も損失回避として認識されにくいのが制限です。
期間限定の割引がいつもより大きいセールや、クーポンの利用期限、数量の制限など、「今しかない」と機会や時間を限られると焦りも合わさり冷静な判断がしにくくなります。
本来は必要のなかった商品・サービスを買ってしまったりといった浪費をしやすくなるので注意しなければいけません。

損失回避性は人間の本能的な反応なので、感情をコントロールするのは非常に困難です。
欲望や焦りという感情が生じた時に、立ち止まって冷静に考える機会を作り、適切に判断することが有効な対策になります。

因みにマーケティングに利用される心理特性は損失回避性だけではありません。
そのことについてはこちらのページでまとめています。是非ご覧ください。

てなとこで。