【睡眠の基礎知識】適切な睡眠時間とよくある誤解|ショートスリーパー・寝だめ・90分周期…

睡眠は生き物が生きていく上で基本的かつ不可欠な要素です。
それは単に疲労を回復するためというだけではありません。
睡眠不足は生活全体に不調を起こしてQOLを低下させ、最終的には重篤な症状・状態に陥ってしまうほど重大な問題です。
寝不足によって起きる心身の不調や病気のリスクについてはこちらのページで詳しく解説しています。併せてどうぞ!

しかし多くの人はそんな重要な睡眠について、あまり正確な知識を持っていません。
結局のところ適切な睡眠時間はどれくらいなのかを正しく知っているでしょうか?
必要な睡眠時間を短くする方法は現実に可能なのか、気になる人も多いでしょう。

また睡眠の周期に合わせると適切な睡眠時間が確保されるという説を信じている人も多いですが、これにも落とし穴があります。
このページではそんな基本的ながら多くの人が知らない、または誤解してる睡眠の基礎知識について解説します。

1 適切な睡眠時間の長さは?

最近は睡眠の質の重要性を拡大解釈して、「質さえ高ければ良い」と誤解してる人も多くいます。
しかし適切な長さの睡眠を取ることは、質を高めるのと同じくらい重要なことです。

適切な睡眠の長さについては巷で実に多くの説が流布されています。
「5時間で十分」とするものもあれば、「9時間は寝ないといけない」とするものも、中間の「7時間がベスト」とするものと様々です。

なぜここまで主張される適切な睡眠時間の長さに開きがあるのでしょうか?
その理由は非常にシンプルで「適切な睡眠時間は人によって大きく異なるから」というだけのことです。
誰かにとっては正解でも他の誰かにとっては不正解ということは睡眠に限りませんよね。
つまり自分にとって最適な睡眠時間は自分で試して把握するしかないということです。

1-1 ロングスリーパー・ショートスリーパーは存在する?

睡眠時間中は仕事も家事も運動も娯楽も何も出来ないので、なるべく睡眠時間を短くしたいと考える人もいると思います。
睡眠時間の長さで話題になるのが、ロングスリーパー・ショートスリーパーの存在です。
おおよそ睡眠時間が9時間を超える人をロングスリーパー、5時間を下回る人をショートスリーパーと呼ぶようです。
結論から言うとこれらの極端な睡眠時間が適してる人も一定数は存在します。
ただ適正な睡眠時間の分布は3時間くらいから10時間にかけて正規分布になっているので、いることは確かですがごくごく少数です。

全体の3%くらいって言われてるよ

多くの人は正規分布の中心、山なりになったポイント、すなわち中間の7時間前後の部分に属します。
「もしかしたら自分はショートスリーパーなのでは?」と期待を持ってる人もいたかもしれませんが、確率的に言うとかなり望み薄です。

1-2 睡眠時間を短くできるのか?

忙しい人の多くが「出来ることなら睡眠時間を短くしたい」と考えていることでしょう。
書店に行けば、こうしたショートスリーパーになるための指南書を見付けることも出来ます。
ではこうしたメソッドには本当に効果があり、実際に適正な睡眠時間を短く出来るかと言うとまずムリです。

睡眠の質とも関係しますが、適正な睡眠時間は体温やホルモン分泌、自律神経の切替といった様々な体内リズムによって決定します。
いくら外から短い睡眠に少しずつ近付けていっても、身体の中心にある大元の時計は変わりません
無理して睡眠時間を30%削っても、起きてる間のパフォーマンスがたった5%下がっただけでトータルでは大きなマイナスです。

しかも例え生来のショートスリーパーだったとしても、睡眠時間が短いほど短命という研究もあります。
ショートスリーパーになることは諦め、適正な睡眠を取ることで日中のパフォーマンスを上げることに専念する方が合理的と言えるでしょう。

因みにロングスリーパーも短命らしいね

1-3 歳を取ると睡眠時間が短くなる?

「適正な睡眠時間は年齢によって異なる」という説も有名なので、耳にしたことがある人も多いでしょう。
子供の頃は必要な睡眠時間が長く、歳をとるごとに適正な睡眠時間が短くなっていくというものです。
実際に多くのお年寄りが非常に早起きだという事実とも一致するので信ぴょう性も感じられます。

しかしこれも実は誤りで、適正な睡眠時間は生涯を通して大きくは変わりません
お年寄りの多くも適正な睡眠時間は7時間前後です。
では何故多くのお年寄りが早起きかと言えば、その理由は非常に単純で日中も寝てるからに過ぎません。

日中はずっと仕事をしてますが

このように思う人もいるかもしれませんが、寝てると言っても昼寝などのガッツリの睡眠のことではありません。
単純に覚醒度合いが低いということで、分かりやすく言えば半分寝てる状態ということです。
そうしたウトウトとかボーっとの時間と夜の睡眠を合わせると大体7時間前後になります。
現にジムで見かける活動的で筋肉隆々のおじいちゃんは若い頃から変わらず毎日8時間弱寝ると言っていました。

2 寝だめはムダ

平日は忙しくて寝不足だから、週末に沢山寝て寝だめするという人がいます。
これも実は睡眠に関してよくある誤解の1つです。

人間の体力や認知リソース(脳の体力)はPRGのHPと同じで上限値があります。
なので必要以上の睡眠時間を取ったからと言って、上限値を突き破って体力を蓄えておくことは出来ないのです。

週末はグッスリ沢山寝て、寝覚めもスッキリしたように感じることがあるかもしれませんが、これは体力が上限を超えたからではありません。
現代人は慢性的な睡眠不足状態にあり、この状態を借金に喩えて睡眠負債と言います。
そう、睡眠は貯金は出来ませんが、借金をすることは出来るのです。
つまり週末にいつもより長く寝てスッキリしたように感じているのは、貯金できたからではなく、借金を返して0に戻ったからに過ぎません。

「借金が出来る」とは言いましたが、「借金しても問題ない」というわけじゃないことには注意が必要です。
後で返すとは言え借金中は常に睡眠不足を原因とする各症状・不調という利子で蝕まれ続けます。
また身体はリズムを大事にするので、週末の長時間睡眠から一転、急に平日は短時間睡眠というジェットコースター人生には着いてこられません。
ブルーマンデー症候群(月曜日の憂鬱さ)の正体はジェットコースターによるメンタル(脳)の不調です。

何より長時間睡眠は認知症と寿命を短くするリスクがあります。
いくら平日の疲れを取るためとは言っても、週末に長く寝ることはオススメしません。

長くしてもせいぜい30分くらいかな

3 適正な睡眠時間を把握する方法

では自分にとって適正な睡眠時間の長さをどのように知れば良いのでしょうか?

3-1 思考錯誤でベストを探す

自分にとって何時間の睡眠が適正なのか、結局のところこれは色んな時間を試してみるしかありません。
睡眠の質を高める工夫をし、環境を作った上で、条件を可能な限り統一して様々な時間を試していきます。
睡眠時間の長さ以外の条件・要素を変えてしまうと何の影響なのかが不明確になってしまうからです。

少々面倒に感じるかもしれませんが、それだけのことをやる価値が睡眠にはあります。
禁煙や貯金、運動、ダイエットなど面倒でもやった方が良いと思うことは山ほどありますが、何か1つに絞るなら間違いなく睡眠習慣の改善です。
それだけ人生全体にインパクトを及ぼす重要なことで、かつ多くの人が適正なものから離れているということです。

既に解説したとおり、ボリュームゾーンは7時間前後で多くの人がこの近辺に属すると考えられます。
なので6時間~8時間の間で睡眠時間を調整し自分にとって適正な時間を探りましょう。
睡眠を必要最小限にしたいという人は6時間くらいから15分刻みで増やしていくのがオススメです。
因みに疲労やストレスといったコンディションは日によって変わるので、1週間くらいは同じ時間を試した方が良いと思います。

明らかに足りなくて不調が起きてるなら続けずに切り替えて良いけどね

3-2 睡眠が足りてるかの判断基準

睡眠時間の適性を測る指標としては、まず朝起きた時の頭のスッキリ感や身体の軽さといった体感が重要です。
そして起きてから4時間後の覚醒度合い(頭の冴え具合)も確認するようにしましょう。
何故なら本来はここが1日の中で最も頭が冴えてるはずの時間帯だからです。
ここで眠気を感じるようなら睡眠時間が適正でない可能性が高いと言えるでしょう。

また睡眠不足だと神経が過敏になり研ぎ澄まされた感じになるので、それも1つの目安になります。
「研ぎ澄まされた」なんて表現をすると良いことのように思えますが、単純にピリピリして些細なことに大げさに反応してしまうだけです。
ストレスが溜まるので良いことは1つもありません。

睡眠負債など、これまでのガタガタな睡眠の悪影響を回復するにはそれなりの時間がかかります。
そのため最初のうちはいくら寝てもこういった体感がさほど良くならない人が多いはずです。
過度な疲労や睡眠不足の影響が取れてから、始めた方が実りある実験になると思います。
睡眠時間のモニタリングの方法を以下にまとめておきます。

・条件を統一する
・7時間前後の睡眠から試す(15分~30分刻み)
・翌日の体感を観察する(頭のスッキリ感・体の軽さ)
・起床4時間後の頭の冴え具合をチェックする

3-3 時間に拘り過ぎない

おおよその自分に必要な睡眠時間を把握することは非常に重要なことです。
しかしここで1つ注意点があります。
それが睡眠時間の長さに拘り過ぎないということです。

人間の身体は様々なことが絶妙なバランスを保っていて、かつ様々なことに影響されています。
同じように仕事をしたとしても疲れ方は毎日微妙に違っているはずです。
つまり日中の疲れやその日の睡眠の質によって必要な睡眠時間は変化すると考えられます。

実際にぼくは7時間~7時間半くらいの睡眠が最も調子が良いですが、たまに6時間半くらいで二度寝出来ないほどスッキリ起きてしまいます。
予定より早く起きたなら、睡眠時間を守ろうと固執するより起きてしまう方が良いでしょう。
睡眠時間はおおよその目安でしかなく、「起きた時が起きたい時」ってことです。

好きになった人がタイプ的なね

4 90分周期説の落とし穴

睡眠の波は90分刻みだから90の倍数を試せばいいんじゃないの?

睡眠のリズムに関する説で、「レム睡眠とノンレム睡眠は90分周期で繰り返す」というものがあります。
睡眠が浅くなったタイミングはスッキリ起きやすいので、睡眠時間は90分の倍数で設定するのが良いというのが論旨です。
確かに90分の倍数なら標準的な人は6時間、7時間半、9時間辺りを試すだけでベストな時間が見つかることになります。
これなら1ヵ月もあれば最適な睡眠時間に辿り着けるので、面倒に感じていた人には朗報でしょう。

しかし残念ながらこの90分周期説は穴だらけの理論なので参考には出来ません。
まず非常にシンプルな問題点がこの90分周期というのは被験者の平均値だということです。
統計の知識がある人なら分かると思いますが、平均とは折衷案ではなく実態の無いただの数字でしかありません。

さらに1人の人の睡眠においてもレム睡眠とノンレム睡眠の周期は一定ではないのです。
標準的な睡眠では前半ほど周期が長く、後半に近付くにつれて徐々に周期が短くなっていきます。
各個人の睡眠時間を発生した波の数で割った数字を使って被験者全体の平均を計算したら約90分だった、というだけの話です。

ここまで説明すれば90分周期説を当てにして、おおよそ3択から睡眠時間を探るというのがいかに雑な検証か分かるでしょう。
厳密に必要最小限の睡眠時間に拘らないという人は30分間隔でも良いかもしれませんが、1時間や1時間半間隔というのは流石に括りが大きすぎます。
繰り返しになりますが、睡眠不足だけでなく寝過ぎもまた認知症や寿命の短縮といったリスク要因です。
効率主義の人に限らず、多すぎず少なすぎない適正な睡眠時間を丁寧に探っていきましょう。

まとめ

重要であるにも関わらず意外と知られていない睡眠の基礎知識について解説してきました。
睡眠不足が身体にも心にも良くないということは分かっていても、どれだけ寝たら十分なのかを知ってる人はほとんどいません。
睡眠は短すぎても長すぎても問題で、週末に負債を返済してるから問題ないと考えてる人は両方の悪影響を受けてしまい非常に危険です。

睡眠の質を高める方法にも関係しますが、人間の身体は一定のリズムを刻み、それを大事にしています。
これをガタガタにしてしまっていれば、あらゆる所に不調が出ても何の不思議もありません。

睡眠の質も重要ですが、適切な長さの睡眠もまた欠かせない要素です。
ぜひとも寝る前の付け焼刃的な対策で満足することなく、睡眠を生活全体から適正化していく努力をして欲しいと思います。
てなとこで。